減価償却と聞くと節税をイメージする方が多いのではないでしょうか。
今や日常業務に欠かせない存在のパソコンも、減価償却が可能です。
この記事では、パソコンの減価償却方法を価格帯別に分かりやすく解説します。
記事の後半では、パソコンの減価償却に関するよくある質問にもお答えします。
2023年 2月1日 監修者:公認会計士・税理士 大橋 誠一 事務所 所長
税理士試験と公認会計士第二次試験の双方に合格し、さまざまな規模や業種の企業で税務監査・財務諸表監査に従事してきた経歴を持つ。
そして税理士・公認会計士出身の民間専門家として国税審判官に任官され、法人税・所得税・相続税・消費税・加算税の審査請求事件の調査・審理に従事することにより、税務署長・国税局長による課税処分を取り消すか否かの判断を行った経験を有する。
パソコンは、法人・個人事業主に関係なく減価償却が可能です。
この章では、パソコンの減価償却の仕組みについて、基本的な考え方を解説します。
減価償却費は、資産の取得価額を耐用年数に応じて費用計上する際に利用する勘定科目のことです。
減価償却費として経費計上することで、数年間にわたって利益額を少なくすることができるため節税効果を期待できます。
減価償却の対象は、時間の経過とともに価値が下がる資産のみです。
たとえば、建物や設備・機械、工具や備品などが挙げられます。
減価償却の対象となるか否かについては条件があり、取得金額10万円以上であれば備品として減価償却し、10万円未満であれば取得した年度に一時に経費にします。
参考情報:国税庁「減価償却のあらまし」
減価償却を考えるときの取得価額とは、パソコン1単位の購入代金に付随費用を加えた金額です。
パソコン本体だけでなく、オプションなどを含めて1セットで使用する際に発生した費用を1単位と考えます。
購入パターン | 購入代金 | 1単位金額 |
ノートパソコン | 120,000 | 120,000 |
パソコン本体+容量増強オプション | 144,000 | 144,000 |
ノートパソコン5台 | 500,000 | 100,000 |
付随費用とは購入手数料や延長保証料、送料などを指します。
資産を減価償却する際には、購入価額を一度に処理せずに、使用可能な期間に分割して処理します。
使用可能とされる期間は法令で定められており、これを耐用年数と呼びます。
サーバとして使用するパソコンは耐用年数5年、サーバ以外の用途に使用されるパソコンの耐用年数は4年です。
動画制作に使用するパソコンは、原則として4年で減価償却します。
耐用年数に関してはデスクトップパソコンとノートパソコンの区別はなく、どちらも同じ年数です。
参考情報:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表」
パソコンの取得価額は、耐用年数に分割して費用計上することで減価償却できます。
パソコンは個人事業主の方でも減価償却が可能です。
かしこく節税することをおすすめします。
取得価額10万円未満のパソコンは、減価償却ではなく一時に経費で処理できます。
国税庁は、取得価額10万円未満あるいは使用可能期間1年未満の什器や備品は、消耗品として購入年度に全額経費計上できるとしています。
ただし経費への計上は義務ではないため、いったん資産に計上して減価償却することも可能ですが、通常は10万円未満であれば購入年度に経費計上することになるでしょう。
その年の利益や経営状況で、経費で処理するか減価償却で処理するかを検討する余地があります。
参考情報:国税庁「少額の減価償却資産になるかどうかの判定の例示」
10万円未満のパソコンなら購入した年度に全額を経費にできるため、節税効果は大きいといえます。
経費として処理すれば節税効果はその年限りですが、減価償却すれば数年にわたり少しずつ節税効果があるため、状況に応じて選ぶとよいでしょう。
動画制作で使用することが多い取得価額10万円以上のパソコンは、原則として耐用年数の4年で減価償却します。
ただし、取得価額や条件次第では、3年以下で償却できる場合があります。
パソコン取得価額 | 経費処理 | 一括償却資産 | 少額減価償却 | 固定資産 |
10万円未満 | ◯ | ◯ | ◯ | ◯ |
10万円以上20万円未満 | ◯ | ◯ | ◯ | |
20万円以上30万円未満 | ◯ | ◯ | ||
30万円以上 | ◯ |
1つめは、原則通りにパソコンを耐用年数で減価償却する方法です。
前述の通り、サーバとして使用するパソコンは5年、一般的な用途で使用するパソコンは4年で減価償却可能です。
取得価額30万円以上のパソコンは、購入年度の全額経費計上や短期間での減価償却などができないため、定められた耐用年数で減価償却しましょう。
使用開始日を基準に月割計算し、年度末に計上します。
また、10万円以下のパソコンを資産として計上し、4年で減価償却することも可能です。
2つめは、パソコンを一括償却資産として3年で減価償却する方法です。
一括償却資産では、取得価額20万円未満のパソコンを、法定耐用年数の4年より短い3年で償却できます。
一括償却資産としての減価償却は、青色申告の承認を受けていない(白色申告の)個人事業主でも、10万円以上かつ20万円未満のパソコンを最短で減価償却できる方法です。
原則通りの減価償却と違い月割計算は不要で、3年で均等償却できるという特徴があります。
そのため、購入した月に関係なく購入年度に取得価額の3分の1を減価償却でき、原則通りの減価償却と比べて節税効果が高まるといえます。
3つめの方法は、少額減価償却資産の特例です。
少額減価償却の特例は、取得価額10万円以上30万円未満の減価償却資産を、1年間の合計金額が300万円に達するまで、購入年度に全額一時に経費にできる仕組みです。
この特例は、従業員数が500人以下の青色申告をする個人事業主や、従業員数が500人以下の資本金が1億円以下の青色申告をする中小企業が利用できます。
少額減額資産の特例は2024年3月31日まで適用されます。(2023年1月31日現在)
参考情報:国税庁「中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例」
10万円以上のパソコンは、減価償却方法が取得価額によって異なります。
白色申告か青色申告かでも利用できる方法が違うため、条件に応じて都合のよい償却方法を選択しましょう。
パソコンを耐用年数で減価償却する方法には、定額法と定率法があります。
あらかじめ届出をしなければ、個人は定額法、法人は定率法が法定の償却方法として適用されます。
変更を希望する際は、個人事業者の場合はその年の3月15日までに、法人の場合はその年度開始日の前日までに所轄税務署長へ申請書の提出・承認が必要です。
一度選んだ償却方法を再び変更したい場合は、特別な事情を除き3年経過しなければ認められないことを覚えておきましょう。
個人事業主の法定償却方法である定額法は、取得価額に対して毎年同じ金額を償却する方法です。
サーバとしての用途ではなく一般的な用途で使用するパソコンは4年で減価償却するため、定額法償却率は0.25です。
定額法では、パソコンの取得価額に対して、0.25を乗じた金額ずつ減価償却します。
また、耐用年数が過ぎてもパソコンそのものが無くなってしまう訳ではないため、最終年度は1円を残して処理します。
1〜3年目 | 200,000円x0.25 | 50,000円 |
4年目 | 50,000円ー1円 | 49,999円 |
法人の法定償却方法である定率法は、取得価額に対して毎年同じ割合を償却する方法です。
一般的なパソコンは耐用年数が4年のため、定率法の償却率は0.5 です。
定率法ではパソコンの未償却残高に対して、0.5を乗じた金額ずつ減価償却します。
定額法と同じく、最終年度は1円を残して処理します。
1年目 | 200,000円x0.5 | 100,000円 |
2年目 | 100,000円x0.5 | 50,000円 |
3年目 | 50,000円x0.5 | 25,000円 |
4年目 | 25,000円ー1円 | 24,999円 |
パソコンを減価償却する方法は2種類ありますが、最終的には定額法と定率法で変わらない金額を償却できます。
定率法では初年度に大きな金額を減価償却できるため、節税効果が大きいといえます。
税務署長へ申請すれば、法定の減価償却方法は変更できますが、3年以内に元の減価償却方法へ戻せないため、よく考えて判断しましょう。
パソコンの寿命と耐用年数は、どちらもパソコンが使用可能な期間を指します。
一般的に言われるパソコンの寿命は5年程度でしょうが、使用頻度やスペックによって差があります。
一方、耐用年数は法令で定められたものであり、一般的な用途で使用されるパソコンは4年です。
寿命や耐用年数を過ぎたパソコンはトラブルが起こりやすくなるため、業務に支障を起こさないよう早めに買い替えの検討をおすすめします。
ソフト面 | OSのサポート終了 |
ハード面 | フリーズすることが増える |
突然電源が落ちる・起動できない | |
ガリガリ音その他の異音がする |
一般的な用途で使用するパソコンは4年で減価償却期間が終了するため、このタイミングで買い替えると節税効果が高くおすすめです。
なお、パソコンを修理しながら使用するときの修理代金は、修繕費として費用計上できます。
多くの職種で、日常業務に欠かせない存在であるパソコン。
法人・個人事業主に関わらず減価償却が可能なので、節税のためにはしっかり意識しておきたいところです。
パソコンの減価償却について、よくある質問をピックアップし、その解答をまとめました。
確定申告には「青色申告」と「白色申告」の2種類があります。
青色申告と白色申告の違いは、記帳水準の正確性の要求に基づく税制上の優遇措置です。
高い記帳水準が求められない白色申告では税制上の優遇措置は基本的にありませんが、高い記帳水準が求められる青色申告であれば、その特典として最大で65万円の事業所得からの控除を受けられるという違いがあります。
パソコンの減価償却に関しては、白色申告の場合20万円までは3年にわたる一括償却ができます。
一方、青色申告の場合には、30万円未満まで購入年度の全額の償却が可能です。
青色申告を行う際には承認の申請が必要なので、事前に申請手続きもあわせて行いましょう。
業務上の用途とプライベートの用途、双方に使うパソコンを減価償却する場合、家事按分が必要となります。
事業利用の割合とプライベート利用の割合を計算し、事業に利用している分のみ経費として計上するという形です。
家事按分の方法は明確に定められておらず、理論的な根拠のある説明ができれば問題ありません。
つまり、事業のみならずプライベートでも使用しているパソコンであっても家事按分さえしっかりできていれば減価償却が可能です。
しかし、経理上の計算を簡単にするためには、事業用とプライベート用でパソコンを分けるのがおすすめです。
パソコンの勘定科目や仕分けは、購入時にかかった費用や状況によって異なります。
パソコンの購入費用として10万円以上20万円未満の金額がかかった場合は資産の勘定科目は「備品」または「工具器具備品」となり、減価償却の対象となります。
たとえば15万円のパソコン1台を購入し一括償却資産として処理する場合は資産科目が「一括償却資産」となるため、
借方:一括償却資産 150,000円
貸方:現金 150,000円
となります。
借方 | 貸方 | ||
備品(一括償却資産) | 150,000 | 現金 | 150,000 |
10万円未満のパソコンを購入したときには、購入費用は必要経費として計上されます。
8万円のパソコンを現金で購入した場合を例にしてみると、
借方:消耗品費(もしくは事務用品費) 80,000円
貸方:現金 80,000円
と仕訳されます。
たとえ中古であっても、10万円以上の価格で購入したパソコンは減価償却資産として計上できます。
購入した時点ですでに耐用年数を超えて使用されている中古パソコンの場合、法定耐用年数の20%を耐用年数として計算することになります。
パソコンの法定耐用年数4年を超えて使用されている中古パソコンの耐用年数は2年、購入時点では4年未満の使用年数である中古パソコンの耐用年数は、法定耐用年数-使用年数+(使用年数の20%)という計算で算出します。
また1年未満の部分については切り捨て、2年未満となった場合の耐用年数は一律で2年として計上する点にも注意しましょう。
<計算例>
・5年使用されている中古のパソコンを購入したとき
購入時点で中古パソコンの法定耐用年数4年を超えて使用されているので、耐用年数は2年となります。
・1年だけ使用された中古のパソコンを購入したとき
4年(法定耐用年数)ー1年+(1年×20%)=3.2年で1年未満を切り捨てるため耐用年数は3年
1年未満の部分は切り捨てて計算するため、耐用年数は3年となります。
パソコンには高額の製品も多く、分割払いで購入することもあるでしょう。
その場合でも減価償却は可能です。
支払い方法にかかわらず、取得価額によって経費、もしくは備品として処理することになります。
つまりこれまで説明してきた通り、購入の費用が10万円以上なら減価償却が可能です。
仕訳の仕方としては以下のようになります。
・購入時
借方 | 備品 | 貸方 | 未払金 |
・支払時
借方 | 未払金 | 貸方 | 現金 |
・減価償却時
借方 | 減価償却費 | 貸方 | 備品 |
近頃はパソコンのサブスクリプションサービスもあります。
サブスクリプションを利用しているパソコンについては、減価償却をする必要はありません。
サブスクリプションで利用しているパソコンについては、パソコンそのものではなく「パソコンを使用する権利」を購入していると考えます。
サブスクリプション期間が終われば資産となるパソコンそのものは手元に残らないので、資産の購入とはみなしません。
サブスクリプションサービスを利用している期間に発生する料金を、支払手数料としてその都度経費で計上します。
「パソコンの取得価額」には、容量増強などのオプションの価格も含まれます。
パソコンは本体のみならずそれが機能するため機器が一体となって初めて稼働できるものです。
そのため、パソコンをひとつの資産として考える場合、パソコン本体とそのパソコンと一緒に使用する機器の購入費用を合計した金額を「パソコンの取得価額」として計上するのです。
例外として、周辺機器が揃っておりすでに機能しているパソコンがある状態に加えて、さらにモニターの増設など別の周辺機器を購入するようなケースでは、購入した周辺機器を単独で資産または経費として計上することもできます。
別の例では、たとえば10万円以上の価格で購入した空撮用のドローンは資産と考えられ、法定耐用年数は「器具及び備品」の「光学機器及び写真製作機器」として5年として計上されます。
ドローンの本体とは別に取得価額が10万円未満、もしくは使用可能期間が1年未満である周辺機器(風速計やランディングパッドなど)は、消耗品として扱われます。
どのようなビジネスでもパソコンの使用や買換えの頻度が高くなっているので、正しく費用計上できる基本的な知識を身に付けておくと良いでしょう。
国税局の電話相談センターは年中無料で基本的・一般的な相談に応じてくれます。
ちなみに、税理士に相談する場合は通常は相談料を要しますし、記帳・決算・確定申告までを依頼すると更に継続的な報酬がかさむため、確定申告時期に開催される無料の税務相談会などを活用して、自分で対応できるか否かを見極めるという方法もあるでしょう。
2023年 2月1日 監修者:公認会計士・税理士 大橋 誠一 事務所 所長
税理士試験と公認会計士第二次試験の双方に合格し、さまざまな規模や業種の企業で税務監査・財務諸表監査に従事してきた経歴を持つ。
そして税理士・公認会計士出身の民間専門家として国税審判官に任官され、法人税・所得税・相続税・消費税・加算税の審査請求事件の調査・審理に従事することにより、税務署長・国税局長による課税処分を取り消すか否かの判断を行った経験を有する。
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