EDIUS ProはQSV(Intel Quick Sync Video)を利用することでハードウェアエンコーディングを利用することができます。
ハードウェアエンコーディングは動画の書き出し時間を短縮する方法です。
セミナーや講演会・舞台撮影などの記録撮影・編集は動画の尺が長いので、書き出し時間の短縮は作業時間短縮に直結します。
ここではEDIUS ProでIntel Quick Sync Videoを活用する手順と、書き出し時間の違いを検証します。
最新のインテルCPU搭載パソコンを使っているのに、Intel Quick Sync Videoを活用できていない場合が多々あるので、チェック方法等も詳しく解説いたします。
Intel Quick Sync Videoとは
EDIUS Proを長年利用してる方はIntel Quick Sync Video(以降QSV)について聞いたことがあるかもしれません。
EDIUS ProのエンコーディングはQSVを活用することで高速書き出しが可能です。
第2世代インテル® Core™ プロセッサーに内蔵された映像のデコードとエンコード処理を高速化するハードウェアアクセラレータ「インテル® クイック・シンク・ビデオ」を活用すると、長時間の変換作業が必要であったブルーレイ作成やH.264のファイル出力を短時間で行うことができます。実際にEDIUSで試してみて、その速度を体感した方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。
QSVはインテルのCPUのみ活用できます。(AMD CPUは不可)

QSVがサポートするビデオフォーマットの対応状況
QSVは2011年に発売された第2世代Coreシリーズから実装が始まり、現在に至るまで搭載し続けているビデオエンコード・デコード機能です。
ビデオカード支援でエンコーディングを行うハードウェアエンコーディングと同じようなもので、CPUに内蔵するGPUの支援でエンコーディングを行います。
そのため、インテルCPUであっても内蔵GPUを持たないCPU(型番にF付きのCoreシリーズ)はQSV非対応になります。
この記事を作成している時点でインテルCPU Coreシリーズは第12世代(Alder Lake)が発表されていますので、上記の引用情報はかなり古い情報と考えられます。
しかし、最新のインテルCPUにもQSVは実装されており、EDIUS Proの高速エンコーディングは実現可能なはずです。
まずは自身のパソコンの対応状況を確かめ、QSVを使ってみましょう。
Intel Quick Sync Videoを利用できるCPUかどうか確認する
QSV対応のCPUかどうかは簡単に分かります。
使用しているパソコンのCPUを調べてからネット検索してみましょう。
検索上位にインテル公式のCPU仕様詳細のページが見つかるはずです。

インテル Core i7-11700の仕様 画像引用:インテル公式
インテルの仕様紹介の中に「プロセッサー・グラフィックス」の項目が見つかります。
この項目に内蔵GPUの名称(Core i7-11700ではインテル UHD グラフィックス 750)が明記されており、その下のほうの項目で「インテル・クイック・シンク・ビデオ」が「はい」になっていればQSV対応のCPUとなります。
Intel Quick Sync Videoを使用しているか確認する
QSV対応のCPUを使っていたとしてもQSVが有効になっていない場合があるので注意が必要です。
利用している動画編集ソフトを起動し、Windows タスクマネージャーを起動してみましょう。
ショートカットキー「Ctrl + Shift + Escキー」でWindows タスクマネージャーが開くので「パフォーマンス」のタブを開きます。

動画編集ソフトを使用時にタスクマネージャーを確認 画像拡大
するとCPU・メモリ・ディスク・GPUの使用率を確認できる画面が表示されます。
この画面で内蔵GPUの項目がない場合はQSVが有効になっていない可能性があります。
デスクトップパソコンの場合、マザーボードに備わるDisplayPortまたはHDMIを利用して液晶ディスプレイに映像出力することで内蔵GPUが機能します。
ただしビデオカードを搭載しているパソコンでは通常ビデオカードに備わる映像出力端子を利用するので、その場合はCPU内蔵GPUを活用できていない場合があります。
Intel Quick Sync VideoをBIOSで有効にする
QSVを有効にするにはUEFI ( BIOS ) の設定が必要になります。
QSVを利用するためにUEFI ( BIOS )を起動してみましょう。
関連情報:クイック シンク ビデオを有効にする方法|ドスパラ
UEFI ( BIOS )の画面はパソコン起動時に所定のキーを押すと起動します。

セミナー編集に必要な性能を持つクリエイターパソコン DAIV Z7-MVPR
UEFI ( BIOS )を起動できるキーはマザーボードやパソコンによって異なるので、分からない場合はパソコンメーカーに問い合わせる必要があります。
今回の検証で使用したパソコンはマウスコンピューター DAIV Z7-MVPRで、パソコン起動時に F7キーを断続的に押すことでBIOSが起動しました。
関連情報:「 BIOS 設定 」 画面を表示する方法|マウスコンピューター

マウスコンピューター DAIVのBIOS画面
マウスコンピューター DAIVのBIOS起動画面でまずは「Enter Setup」を選びます。

DAIV Z7-MVPRのBIOS画面 画像拡大
次に「SETTINGS」⇒「Advanced」⇒「Integrated Graphics Configuration」⇒「IGD Multi-Monitor」を選びます。
これが「Disabled」になっているので変更します。

IGD Multi-Monitorを「Enabled」に変更 画像拡大
「Enabled」に変更してみましょう。

EDIUS Proで書出し(エンコーディング)時のタスクマネージャーを確認 画像拡大
設定はこれだけです。
BIOS画面の右上の「×」をクリックすると、今回変更した内容を表示してくれます。
続けて「Yes」を押すとBIOSの設定完了です。

EDIUS Proで書出し(エンコーディング)時のタスクマネージャーを確認 画像拡大
BIOSの変更で稀にパソコンに不具合が発生することがあるので、変更した内容はメモするかスクリーンショットを残しておきましょう。
マウスコンピューター DAIV Z7-MVPRのBIOSモードにはスクリーンショット機能が備わっています。
F12キーを押すと、パソコンに接続してるUSBメモリーに画像(BMP)保存することが可能です。念のために保存しておきます。

EDIUS Proで書出し(エンコーディング)時のタスクマネージャーを確認 画像拡大
そして再起動するとオンライン状態ならインテルグラフィックドライバーが更新されます。
早速タスクマネージャーのパフォーマンスを確認してみると、GPUにインテル UHD グラフィックス 750が追加されました。
これでQSVを活用したハードウェアエンコーディングが使えるようになります。
EDIUS Proの書き出し時間を検証

EDIUS Proで書出し(エンコーディング)時のタスクマネージャーを確認 画像拡大
EDIUS Proを起動して、書き出し設定を実行します。
エンコーディング(書き出し)を行うプロジェクトは3つのトラックでマルチカメラ編集をしたシーケンスです。
In点・OUT点を設定して5分30秒の動画を書き出ししてみます。
~EDIUS Pro 9の場合

EDIUS Pro 9のH.264/AVCエクスポーター選択は2択
EDIUS ProでH.264/AVCの書き出しを実行します。
EDIUS ProのH.264書き出しはバージョンによってエクスポーターが異なっています。
上の画像はEDIUS Pro 9の出力設定画面です。
H.264/AVCのエクスポーターはH.264/AVCのみです。選んでみましょう。

H.264/AVCを選ぶとハードウェアエンコーディングのチェック項目がある 画像拡大
すると保存場所を選ぶ画面の下にある「基本設定」タブのさらに下に「ハードウェアエンコーディングを使用する」のチェック項目があります。
これが表示されていれば、QSVでエンコーディングが可能となっています。
EDIUS X Proの場合

エクスポーターにH.264/AVC(NVIDIAハードウェア)が追加されている
一方バージョンがひとつ新しいEDIUS X Proの場合、H.264書き出し時のエクスポーター選択にはF4V・H.264/AVCのほかにH.264/AVC(NVIDIAハードウェア)が追加されています。
これはビデオカード支援のハードウェアエンコーディングができる書き出し設定です。
それぞれの設定で書き出し検証をしてみました。
上の画像はBIOSでQSVを有効にしていない状態で書き出しを行ったときのタスクマネージャーの画面です。
H.264/AVCで書き出しした場合はCPU使用率が100%となり、GPUの使用率は0%です。
一方、H.264/AVC(NVIDIA ハードウェア)を選んで書き出しした場合はCPUとGPUの使用率がともに100%で推移します。
H.264/AVC(NVIDIA ハードウェア)を選ぶことでビデオカード支援のハードウェアエンコーディングが実行しています。

QSV無効時のEDIUS X Pro ファイル保存場所選択画面 画像拡大
ちなみにQSV無効時にH.264/AVC(NVIDIA ハードウェア)を選択してみると、ファイル保存場所選択画面では「ハードウェアエンコーディングを使用する」のチェック項目が見当たりません。
BIOSでQSV有効後のEDIUS X Pro

QSV有効時のEDIUS X Pro ファイル保存場所選択画面 画像拡大
ではQSV有効後のEDIUS X Proで書き出しをしてみましょう。
BIOSでQSVを有効にするとH.264/AVCとH.264/AVC(NVIDIAハードウェア)の両方とも「ハードウェアエンコーディングを使用する」のチェック項目が表示されます。

QSV有効時のEDIUS X Pro H.264/AVC書き出し 画像拡大
QSV有効の状態でH.264/AVCを選んで書き出しを実行すると、CPUの使用率は100%となり、GPUの使用率はIntel UHDグラフィックス 750が76%の使用率で推移します。
一方でビデオカード(検証ではGeforce RTX 3060)は0~1%で推移し、ほとんど活用していません。

QSV有効時のEDIUS X Pro H.264/AVC(NVIDIAハードウェア)書き出し 画像拡大
次にQSV有効の状態でH.264/AVC(NVIDIAハードウェア)を選んで書き出しを実行してみます。
CPU使用率は81%前後を推移し、Intel UHDグラフィックス 750が12%の使用率で推移、ビデオカード(Geforce RTX 3060)は79%前後で推移しました。
それではそれぞれの書き出し時間を確認してみます。
EDIUS X Pro 書き出し時間の結果(動画の尺は5分30秒)
H.264/AVC ⇐QSV無効時 | 2分51秒 |
H.264/AVC(NVIDIA ハードウェア) ⇐QSV無効時 | 2分29秒 |
H.264/AVC ⇐QSV有効時 | 2分13秒 |
H.264/AVC(NVIDIA ハードウェア) ⇐QSV有効時 | 3分19秒 |
動画の尺は全て同じ5分30秒です。
映像はSONY SONY HXR-NX5Rで撮影したフルHD(AVCHD)です。
3つのトラックでマルチカメラ編集をしたシーケンスで、QSV無効・有効関わらず半分ぐらいの時間で書き出しできています。
この中でも書き出し時間が最も早かったのがQSV有効時のH.264/AVCです。
検証前の予想ではQSVとビデオカードを両方活用するQSV有効時のH.264/AVC(NVIDIA ハードウェア)が一番早く書き出し完了すると思っていました。
しかし結果は一番時間がかかりました。
書き出し時間だけで見るとQSV無効時のH.264/AVC(NVIDIA ハードウェア) もQSV有効時のH.264/AVCと同等の速度です。
今回の検証は5分の尺で実行したので、長時間の映像編集であれば書き出し時間に大きな差が生じることになるでしょう。
EDIUS Pro QSV設定手順と書き出し時間比較 まとめ
ハードウェアエンコーディングとソフトウェアエンコーディング、QSVエンコーディングの映像品質は今回の検証で差はほとんど分かりませんでした。
一般的にビデオカード支援のハードウェアエンコーディングはソフトウェアエンコーディングに比べると画質が劣ると考えられていますが、GeForce RTX以降のビデオカードによる書き出しはかなり高画質で大差がなくなっています。
なので、EDIUS X Proの書き出しでは、H.264/AVC(NVIDIA ハードウェア) を書き出しするのも良し、QSVを有効にしてH.264/AVCで書き出しするのも良し。
といった感じです。
EDIUS Proで画質と書き出し時間を両方重視するなら、QSVを有効化したH.264/AVCの書き出しがおススメです。
ちなみにノートパソコンならBIOS(UEFI)の設定をしなくても、多くの場合タスクマネージャーで内蔵GPU(Intel UHD グラフィックス)が表示されているはずです。
以上。EDIUS ProのQSVを利用する手順と書き出し時間検証でした。