PXW-X160は2014年に発売された3CMOS搭載のSONY XDCAM(業務用ビデオカメラ)です。
光学25倍のズームレンズや電子式可変NDフィルターを搭載し、XAVCやMPEG HD422による高精細な映像を記録できます。
発売から数年たった今でもプロの撮影現場では存在感があり、活用範囲が広い業務用ビデオカメラですが、その性能は実際どんなものでしょうか?
ここではPXW-X160を実際に使ってみて、使用感や良い点・悪い点を検証してみます。
なお、この動画はmetalzombiさんのカメラ雑談でSONY PXW-X160がどんなカメラなのか解説してくれています。
プロの映像エディターの視点でPXW-X160の良い点・悪い点を指摘されているのでぜひ視聴してみましょう。
PXW-X160はNX5JやZ5Jでおなじみの業務用ハンディカムコーダーのデザインとなっています。
重さは約2.7kgでバッテリーやメモリーカードを取り付けると3.5kg。かなりずっしりとした重さがありますね。
操作性やボタンの配置はプロ用カムコーダー定番通りの配置で、可変式NDフィルターの切り替えスイッチとホイールが装備されているのが特徴です。
メニューボタンが中心にあるのが便利かなと思いました。
レンズは25倍ズームになっており、NX5Jよりも細いズームリングですが、粘りは控えめで「スッ」と回る感じです。絞りは最小値F1.6です。
特長的なのはフォーカスリングが前後にスライドすることでしょう。赤色のラインが見えている状態がマニュアルフォーカスです。
レンズ側にフォーカスリングをスライドすると赤色のラインが隠れてオートフォーカスになります。
カメラの背面側を見るとバッテリー取り付け位置の右側には下からAV端子、HDMI端子、オーディオ端子、SDI、タイムコード入出力、GENLOCK入力と装備されています。
電源オンオフ、RECボタンの上にはASSIGN(アサイン)7があり、メニュー⇒「アサイン登録」で機能を割り当てることができます。初期設定ではFOCUS MAGNIFIER(拡大フォーカス)が割り当てられています。
ハンドルズームレバーの奥にはアイリスプッシュオートが備わっています。
液晶モニターを開いてみると3.5型LCDパネルとクリップ再生の操作ボタンが並びます。
NX5Jと仕様がほとんど同じなので、操作に迷うことはありません。
XLR端子です。
最初マイクを接続してみたときに音声が入らなかったので「アレ?」と思って確認するとINPUT1とINPUT2の位置が逆になっていることがわかりました。
マイク設定のスイッチまわりです。
アサインボタンは6つ並んでいます。
4.ゼブラ、5.ピーキングと印字されていますが、メニューから呼び出したい機能を自由に割り当てることができます。
バッテリーを装着した状態です。
SD/SDHCカードスロットが1つ、SxSメモリーカードスロットが二つあります。
これには注意点があり、後述しています。
メニューボタン下にはセレクト/セットのホイールがあり、その右にはキャンセル/バックボタンがあります。
少し分かりにくい位置にハンドル側のズームレバーのサーボ/マニュアル切り替えスイッチがあります。
では次にガンマイクを装着してみましょう。
XLR型3ピンプラグのマイクを差し込みます。
INPUT1とINPUT2の位置がNX5Jと逆になっているので差込には注意します。
INPUT1は「MIC+48V」に設定してINPUT2はひとまず「MIC」に設定します。
X160の左側面のAUDIO調整を確認してみましょう。
左側の「INT MIC」「EXT」「MI SHOE」のうち「EXT」を選択します。
実際の撮影時に音量を確認し「AUTO」か「MANUAL」を選択します。
ボリュームが小さいなら「MANUAL」を選んで10の方向へ様子を見ながら回します。
次にPXW-X160のホワイトバランス設定手順を確認してみましょう。
PXW-X160のホワイトバランス設定はNX5Jからかなり変更されておりまして、最初手間取りました。
でも慣れたらPXW-X160のほうが簡単だと思います。
ホワイトバランスを設定しないと上のモニターのように青みが強かったり、赤色が強い映像になります。
現場に合わせて正しいホワイトバランス設定が必要です。
ホワイトバランスの切り替えスイッチはXDCAM定番のポジションに用意されており、「PRESET」「A」「B」と切り替えることができます。
HXR-NX3はホワイトバランスの切り替えスイッチをAもしくはBにして、白い紙や壁にカメラを向けた後、右となりに配置しているWB SETボタンを押すことで正しいホワイトバランスを設定できるようになっています。
PXW-X160はWB SETボタンがアイリスリングのすぐ近くに用意されています。
最初は場所がわからず探しましたが、使用してみるとNX-3よりも押しやすいことがわかりました。
ホワイトバランスの切替スイッチはメニュー⇒「Paint」⇒「ホワイト」で割り当てを変更できます。
初期設定ではホワイトスイッチ<B>にはATW(オートホワイトバランス)が割り当てられております。
たとえばホワイトスイッチ<B>もWB SETボタンを使って都度ホワイトバランスを合わせたい場合はホワイトスイッチ<B>を選択し、「ATW」⇒「メモリー」へ変更することで可能になりますよ。
またPRESETには任意でホワイトバランスの数値を適用できますが、一点残念なことに数値での設定は上のメニュー画面で変更しなければならず面倒です。
ホワイトバランスを数値で設定しやすいNX5JやNX3に慣れている方は落胆する部分ではないでしょうか?
実際にホワイトバランスを合わせてみましょう。ホワイトバランスの切替スイッチをAまたはBに切り替えてWB SETボタンを押しますとホワイトバランスを自動で識別してくれています。
この間1~2秒ぐらいです。
ホワイトバランスを最適化しました。すると「OK:5700K」と表示されました。ホワイトバランスを5700K(ケルビン)で合わせたようですね。
このようにしてPXW-X160はホワイトバランスを設定します。
では次に注意をしたいのがシャッタースピードの設定です。
PXW-X160のシャッタースピード設定にはいくつか落とし穴があります。
ビデオカメラでホワイトバランスと同様に重要な設定がシャッタースピードです。
適正なシャッタースピード設定にしないとフリッカーが発生する恐れがありますよ。
シャッタースピードは撮影場所の電源周波数を考える必要があります。
関東の電源周波数は50hz、関西は60hzとなっているので、シャッタースピードはそれぞれ1/100秒、1/60秒に設定します。
私は関西で撮影を行いますので1/60に設定します。
PXW-X160のシャッタースピード設定はまず「SHUTTERスイッチ」をONにします。
説明書を見てもこれがOFFの場合どうなるのかよく分かりませんでしたが、シャッタースピードをオートにするかどうかの切替スイッチではないようです。
マニュアルをよく読むと、シャッタースピードを固定にするにはSHUTTERスイッチをONにしてカメラメニューから変更するようになっています。
この時メニュー⇒「Camera(カメラ)」⇒「Auto Exposure(自動露出)」の「Auto Shutter(オートシャッター)」がONになっていると、固定シャッターを選択できないようになっています。
必ずオフに設定する必要があります。
一眼レフカメラの場合、シャッタースピードの数値を変更して露出を調整することになりますが、一般的にビデオ撮影の場合はシャッタースピードを固定するのが基本です。
そうしないとフリッカーが発生したり、意図しないカクついた映像になる可能性があります。
シャッタースピードはメニュー⇒「カメラ」⇒「シャッター」で数値を変更できますよ。
このようにPXW-X160はシャッタースピードの設定をメニュー画面で設定する必要があり、簡単に変えることはできないようになっています。
ただ、ビデオ撮影に限りシャッタースピードは頻繁に変更するものではないので問題はないでしょう。
では次にPXW-X160の非常に便利なバリアブルNDフィルターについて解説します。これは非常に便利な機能ですよ。
ビデオグラファーにとって、NDフィルターは馴染みのある機能でしょう。
NDフィルターは言うならばカメラのサングラスのようなものです。
太陽光の下での撮影では明るすぎるので、絞りを絞って撮影しなければなりません。
そうすると解像度も落ちるし、ボケ感も表現できなくなってしまいます。
そんな時NDフィルターを入れることで光量を遮り、絞りを開放することができます。
この動画では可変NDフィルターを使った映像とそうでない映像を比較しています。
違いがよく分かるのでぜひ視聴してみましょう。
ビデオカメラでは遮光の強さによって3段階のNDフィルターが用意されており、1/4、1/16、1/64が一般的です。
ところが撮影していると段階の間ぐらいのフィルターをかけたくなる欲求が出てきます。
それを可能にするのがPXW-X160の可変NDフィルターです。
可変NDフィルターは「VARIABLE」と印字されている可変NDフィルター切替スイッチを使います。
左側に設定されている場合はXDCAM定番の3段階のプリセットを使用することができます。
可変NDフィルターを使う場合はNDフィルター切り替えスイッチを右側にして、その下に設置されているホイールを回すことで可変NDフィルターを使うことができます。
可変NDフィルターを使うとXDCAMのプリセットで用意されている数値だけではなく、さらに細かい数値でフィルターを設定でき遮光量を微調整できます。
絞りを最大開放にしてボケ感を出す映像表現には可変NDフィルターが欠かせません。非常に便利な機能です。
PXW-X160の撮影に関する基本的な設定は以上です。
次は撮影した素材を編集する際に重要になるコーデックとガンマセレクトについて解説します。
SONY PXW-X160ではHD(ハイビジョン)に5種類の記録モードが用意されており、画質とファイル容量が変わります。
一番上のXAVC Intra422では出力するファイルの拡張子がMXFとなり、ビットレートは最高111Mbpsで撮影します。
64GBのSDカードで最大60分程度の撮影しかできません。その分高画質ですが、最終的に納品する画質がそこまで求められていない場合はXAVC Intra422で撮影しないほうが良いでしょう。
特に長丁場で撮影するような場合、HDの最下位設定となるAVCHDであれば64GBのメモリーカードで220分撮影できることから優位性が高いと言えます。
AVCHDでも解像度は1920×1080となりますので、十分の画質を得ることができますよ。
またXAVC Intra422はファイルのサイズも大きくなるので、動画編集ではかなり高い性能のパソコンを使わないと途中で止まったり、スムーズにプレビューできず快適に作業を進めることが困難です。
SONY PXW-X160ではフルHD画質でも選択肢の幅が広いメリットがありますが、制作物に合わせた最適なコーデックを選ばないと痛い目を見るでしょう。
そしてもう一つ重要なのがガンマ設定です。
デジタルビデオカメラで撮影した場合、中輝度部分の色合いが乏しくなり青暗い映像になってしまうことがあります。
そうならないよう、ソニーのプロ用カメラXDCAMではガンマ機能を搭載し、実際の映像よりも中輝度部分の信号を大きくしてコントラストをより強くした映像を撮ることができるようになっています。
■ソニーのカメラの特長
ソニーのカメラは、映像全体の色合いを調整する機能として、 GAMMA(ガンマ)機能を搭載しています。
この機能を使って、出力時の信号を実際にカメラに入力された信号の度合いよりも大きくすること(GAMMA補正)で、映像の色合いを変えることができます。GAMMA補正値を低く設定すると、 "設定後"の映像のように、赤やオレンジの花の色合いがより深く表現され、豊かな質感の映像を撮影することができます。逆に高く設定して薄い色合いの映像効果を出すこともできます。
また、手動で調整するだけでなく、あらかじめ一定のGAMMA補正値が設定されたガンマテーブルをメニューで選択することができ、フレキシブルな映像効果の設定をすることができます。
SONY PXW-X160では高性能なガンマ機能を備えており、フィルムカメラで撮影したような雰囲気のある映像を取ることができるようになっています。
このカメラ一台で撮影する場合はぜひ活用したい機能ですが、複数のカメラを使用して撮影する場合は注意が必要です。
ガンマ機能を搭載していないカメラで撮影した映像と合わせて使う場合、映像の色合いの違いが顕著に表れてしまいます。
そうならないようにガンマ設定を同じにしたPXW-X160を2台使用して撮影するか、予算が乏しい場合でもせめてガンマ機能を搭載したカメラを使用するほうが良いです。
今回、私はPXW-X160とHXR NX80の2台で撮影を行いました。
PXW-X160のガンマカテゴリーをSTD(スタンダード)、ガンマセレクトをスタンダード5 R709に設定。
HXR-NX80のピクチャープロファイル設定をPP4(ITU709 ガンマを用いた自然な色合いの設定例)に設定して撮影に臨みました。
PP4で出力した映像の色合いがPXW-X160の映像に近かったので私は選びましたが、もっと他の組み合わせがあるかもしれません。
2台のカメラを使う場合はぜひガンマ設定をチェックしてみましょう。
そして最後、私のPXW-X160失敗談があります。前日に分かったから良かったのですが、危ういところでした。
PXW-X160にはSDカードスロット1つとSxSメモリーカードスロットが2つあります。
今回レンタルでPXW-X160を用意しており、カードアダプター「MEAD-SD02」が1つ付属していたので、SDカードスロットと合わせて2枚のSDカードで同時記録しようと考えていました。
ところがSDカードを2枚挿入してRECボタンを押しても1枚のSDカードだけ記録が始まり、SDカードスロットに挿入したほうはまったく記録されません。
「あれ?どうして?」
よく調べてみると、PXW-X160のSDカードスロットはカメラの設定値ファイルを保存するためのもので、動画記録はできないようになっています。
SDカード2枚で記録するにはSDカードアダプターを使ってSDカードを挿入する必要があります。
これはかなり迂闊でした。
SDカードアダプターを持っていない私は慌てて知り合いに電話して借りることで何とか解決できました。
XDCAMは特殊なメモリーカードを使用することが多く、カメラをレンタルして使う場合は特に気を付けなければいけません。
注意点はたくさんありますが、SONY PXW-X160の映像は別格の解像度で非常に美しいです。
おススメのプロ用カメラであることは間違いありません。
お値段は結構しますが、その値段の価値は十分あるカメラであることは間違いありません。